#191970

言葉はミッドナイトブルーの文字から

ステップ

午前中の海はラメの織り混ぜられた布みたいに波打ってはキラキラと光る。朝日を浴びる海は美しい。海の近くに住んでいて良いことの中の一つだ、と思いながら底冷えする駅から電車に乗った。

Lucky Kilimanjaroの新曲が先行配信になり、日付が変わってからひたすらそれを聴いては踊りたくなる衝動に駆られながら目的地へと向かった。

この間、「SINGING A RAIN 雨に唄えば」のミュージカルへ行ってきた。劇場で観るミュージカルは初めてだった。土砂降りの雨を浴びながら踊る役者たちが生き生きとしていて、なんとも美しかった。帰り道、ステップを踏みながら家までの路地を歩いてミュージカル俳優になったような気分になった。ステップを踏むだけでもパワーがあるな、などと思いながら、誰かのいるあたたかい家へと帰ることは幸せだと思った。

また別の日。スニーカーを履いていた日。いつも革靴を履いている自分にとってはイレギュラーな日。世界から値踏みされているような気分になって最悪だった。別に誰かがジッと見ているわけでもないのに、誰がどう見ても格好いいスニーカーなのに、足元を見るたびいつもと違って気分が落ち込んだ。どこまでも歩けたけど、どこへでも行けるわけではない。この小さな街に拘束されているような気分になって、そんな簡単な事が悲しくて、どうせ捨てもできない自分の情けなさに怒りが湧いた。こんなに自分のことを許せないのは数週間の中でかなり久しぶりなので、きっと春が近いのだと思った。何も成し遂げていないから、春が近づくと怖くなる。変わろうとしている人たちに押し出されるようにして歩く。どうしても変われないから自分に苛立つ。皆何をきっかけにして変わるのだろうか。もう死にたいな。でも死んでも何もならないから、生きるしかないな。どうせ痛いだろうし。ああ、こんな気持ちで生きていたくないな。もっと自由になりたい。でも?そろそろ自分であることをやめたい。疲れた。こんな日に入る風呂は大体気持ちがよくて、まあいっかと思ってまた明日になる。こんなことの繰り返しだ、いつも。